地域適応策を支援する社会技術
熟議型ステークホルダー対話手法による地域適応シナリオづくり
法政大学では、気候モデルや影響評価などの科学的な予測結果(専門知)と、多様な関係者(ステークホルダー)がもつ、気候に限定されない地域社会の様々な短期、長期のリスクに係わる知恵や知識を統合して、持続可能でレジリエント(強靱でしなやか)な地域社会にいたる道筋「地域適応シナリオ」を構築することで、実効性の高い気候変動適応策を立案するサポートをしています。
現在、岐阜県の長良川流域を対象として実施している手順は下図のとおりです。まず、長良川流域の将来を議論するにあたり中心的な役割を担うであろう関係者30団体を対象として、気候変動および社会変動(人口減少、インフラの老朽化等)の長期的なリスクに対する認識、将来に対する意向等について個別にインタビューを実施し、得られたデータをテキストマイニングにより、どのような関係者がどのような論点に利害関心を持っているのかについて分析を行いました。その結果、利害関心が類似する漁業、観光・伝統、民間、河川管理、環境・防災などの6つのグループに分かれ、主な論点として、水害をはじめとする気候変動による環境の変化、長良川の魚類や漁業者の減少、今後の仕事や地域との関わりが挙げられることが分かりました。
今後は、このような関係者の利害関心を、それぞれの専門家が、確実さや深刻さの観点から評価(デルファイ法)したり、サイエンスカフェなどで、成り行き未来と理想的な未来とを分けるポイントを皆で探ったりしながら、気候変動を入り口とした地域社会の将来像(物語風の地域適応シナリオ)を構築していく予定です。
*なお、過去に実施した事例の詳細は、馬場健司・土井美奈子・田中充、気候変動適応策の実装化を目指した叙述的シナリオの開発:農業分野におけるコミュニティ主導型ボトムアップアプローチと専門家デルファイ調査によるトップダウンアプローチの統合、『地球環境』Vol.21 No.2、pp. 113-128、http://www.airies.or.jp/journal_chikyukankyo_201611021507012.html でご覧いただけます。