地域適応策の取組事例

米国ボストン市の気候変動適応イニシアティブ
(Climate Ready Boston)

米国ボストン市では、2012年に発生したハリケーン・サンディの被害が1つの契機となり、2015年より気候変動適応イニシアティブ(Climate Ready Boston)が進められています。この中で(1)将来予測、(2)脆弱性評価、(3)適応策・戦略の立案がまとめられました。将来予測では、マサチューセッツ大学(UMASS)を中心とする研究チームにより4つの現象(海面上昇、嵐、極端な気温(猛暑日等)と豪雨)について、IPCCの3つの代表的濃度経路シナリオ(RCP8.5、4.5、2.6)を基に2030年〜2100年までの予測情報がまとめられました。脆弱性評価では、公開されている社会経済データやインフラ関連のデータを改めて共有し、特に影響を受けやすい人々、建物・不動産、インフラ、経済活動の4つが、沿岸部の洪水や河川の氾濫によりどのような影響を受けるかがマッピングされ、図のように広く公開されています。適応策については、市民や地域ステークホルダーへのインタビューや他都市の優良事例を参考に5つの層、11の戦略、39の取組(イニシアティブ)が提案されています。2年以内に開始できるもの、より長期的な取組となるものなど実施のスケジュールも3段階で示されています。

気候変動適応報告書で公開されているボストン市の脆弱性評価

図 気候変動適応報告書で公開されているボストン市の脆弱性評価
(左から低所得者、建物、公共交通機関、電力施設)
出典:Boston City, Climate Ready Boston Final Report, 2016

この事例の特徴は以下のとおりです。第1に、取組開始のきっかけが、ハリケーン・サンディの被害を受けた企業やデベロッパー等がボストン市の対応に不安を持ち始めたことにあり、民間セクターが先にリアルな危機感を抱いたことにあります。第2に、もう1つのきっかけが、ボストン市初の海面上昇をシミュレーションした浸水マップが市内のNPOにより公開されたことであり、NPOがこのような科学的知見を議論の俎上にのせることは日本では珍しいかもしれません。第3に、市の最も重要な原動力はやはり首長のリーダーシップがあったことです。第4に、気候変動に先導的に取り組んでいる企業グループが事業費の3分の2を出資し、残りは州政府が提供するなど、財源に大きな問題を抱えていない点です。最後に、総合計画との連携が挙げられます。ニューヨーク市も同様ですが、米国の自治体の適応計画はしばしば総合計画に位置づけられ、長期的リスクの1つとして気候変動が位置づけられることで全庁的に取組みやすくなるのは間違ないでしょう。

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