地域適応策の取組事例
長野県高森町における市田柿の適応策の検討その2
法政大学は高森町との連携により、市田柿の生産農家や農業試験場、JA等へのインタビュー調査(2016年度)、農家アンケート調査(2016年度)を実施したうえで、「将来の気候変動を見通した市田柿の対策(適応策)のアクションを考えるワークショップ」(2017年度)を開催してきました。
2018年度の8月と10月には、生産農家、農業試験場、改良普及センター、JA等のスタッフを構成員とする「将来の気候変動を見通した市田柿の対策(適応策)の計画策定ワーキング」を開催し、アクションの追加と体系化、重点的なアクションの絞り込みを行いました。
このアクションの検討においては、従来実施してきた対策技術の改善だけでは対策効果に限界が生じる可能性があること、また小規模農家の撤退、後継者等を見通して、経営改善にも踏み込んだ対策が必要ではないかという点を強調し、アイディアだしを行ってきたところです。
こうした検討は、次のようなデータをもとにしたもので、関係者の学習を促し、一定の議論の方向性を提示しながら、実施してきたものです。
高森町の市田柿を取り巻く将来の気候変動と経営動向(データ分析結果)
- 気候変動により、20世紀は100年で1℃の気温上昇がみられ、近年はその上昇が加速してきています。将来的にも気温上昇は避けられないことが予測されます。特に、2040年頃に向けては、最大限の二酸化炭素排出抑制策を実施したとしても、2℃近くの温度上昇が避けられない可能性があり、温度上昇に備える取組が必要となります。
- 高森町では、地域の人口減少と高齢化がますます進行し、後継者がいない農家が多いことから生産者が減少し、後継者の確保が課題となります。また、小規模な農家が減少し、大規模な農家が増加し、小規模な農家で、耕作放棄地が増える傾向にあります。
高森町の市田柿における気候変動対策の実施状況と課題(農家アンケート結果)
- 気候変動の市田柿への影響では、干し柿のカビ発生が最も深刻であり、回答者の7割弱が「非常に深刻」「やや深刻」と受けとめています。カビ発生への対策は、硫黄燻蒸の増加、皮むきの導入等で対応されていますが、「十分ではない」と認識されています。
- 市田柿の生産農家の9割弱が市田柿の生産は「大変である」「苦労が多い」と回答しています。それでも、「将来も続けたい」という農家が6割弱、「高森町にとってなくてはならない」とする農家は8割を超えます。今後については、多くの方が気候変動(地球温暖化)によって、「高森町の気候が変化し、市田柿の生産がますます困難化する」と捉えています(図参照)。
- 気候変動の認知、市田柿生産への思いは、気候条件とともに市田柿の生産規模、市田柿への収入依存度等の経営属性によって規定されます。気候変動下での市田柿生産の継続意志は、生産の楽しさ度に規定されます。生産の楽しさ度を向上させる適応策を検討することが必要となります。
図 高森町の農家アンケート結果